8年9カ月目からのパクチーハウス

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予想外のパクチーブーム
パクチーハウス東京は世界の料理や旅の体験をヒントに「パクチー料理」という ジャンルを創作し、世界のビールと合わせて楽しい空間を旅人に提供してきまし た。 8年9カ月の間“ちょっと変わった”レストランとして試行錯誤しながら営業を続 けた結果、自分たちでも予想もしなかった「パクチーブーム」の真ん中にいまし た。もちろん、日本パクチー狂会の創設以来パクチーの普及に尽力してきました し、パクチーが日本中に生えている状態を夢見て活動してきましたが、ここまで になるとは。そして現在パクチーを提供することは飲食店にとって普通で、パク チー料理専門店はその他数多くある専門店の一つのように認識されています。 そこで、自分たちのすべきことを改めて考えてみました。

交流する飲食店〜旅先のゲストハウスのように
パクチー料理専門店をやることに対して、創業前から5年間ぐらいは「ありえな い」と言われ続けました。創業後もです。あるのに。 パクチーの知名度がまだまだ低かった当時、「そんなもの」に誰も見向きもしな いという意見は至極真っ当でした。しかし僕自身は「旅で得たポジティブなもの を日本社会に還元する」ために起業を決意したこともあり、日本にないものを広 めたいという思いがありました。パクチーはその一つでしたが、同時にそれを以 て旅先で感じ・考えることを多くの人の日常生活に蔓延させたいと願いました。 「パクチーを知る人=旅する人」だった当時、パクチー料理専門店を開くことに より旅人を集めることができると考えました。そして、旅先のゲストハウスのよ うに、そこにいる他人と気軽に話すことにより、日本におけるコミュニケーショ ンのあり方を変えようと思いました。

パクチー料理専門店
やるからには徹底的に。パクチー料理専門店と決めたからには、「パクチーをたくさん使 う」ではなく「すべての料理にパクチーを入れる」ことをルールにしました。「苦手な人が いるので…」というお客さんの声は拒絶しました。日本パクチー狂会というパクチー原理主義 的なグループをそれ以前から運営していたことが、この決断をする直接的なきっかけになっ たと思います。 飲食業の経験がない僕にとって、全てが手探りでスタートしましたが、珍しすぎたためかた くさんの取材を受けることになり、「ありえない」ことを継続することができました。その 傾向に後押しされ、僕たちは徹底的にパクチーを追求。 未開拓な素材であるパクチーのことを常に考えるのは本当に楽しい経験でした。寝ても覚め てもパクチーのことを考え、いつもパクチーを口にして生活しました。創業前には「パク チー」で少し目立って、「交流する飲食店」で店の楽しさを求めてお客さんが訪れるように 変化して行くと読んでいましたが、パクチーを目的とする人が予想以上に増えました。

交流する飲食店〜その派生形
オープン当時からすべての席を相席にし、パーティ営業というスタイルで交流を促進。ま た、public’S’peaceという名で立ち飲みスペースを設けて、食事だけでなく見知らぬ他人 との邂逅を楽しんでもらってきました。 その結果、パクチーハウスで友達が増えたり、食事を楽しむ愛好会ができたり、中には立ち 飲みから一緒に会社を作った人までいました。それをヒントに僕は東京初のコワーキングス ペース「PAX Coworking」を作ったし、そうした交流を店内という限られた範囲を超えて 拡げて行こうというアイデアから「シャルソン」(走ることを通じてまちを再発見し、人と人とが つながるランニングイベント)が生まれました。 一方で、ありがたい話しながら毎日混雑する店内で食事だけを楽しんで通過してしまう方々 が多数いるのも事実です。この空間をもっと有効利用してほしい、時間をかけて楽しんでほ しいと願いつつ、「パクチー屋行ってきたよ。以上!」という方も残念ながら増えていま す。

8年9カ月の節目に考えたこと
パクチーへの追求は、僕にとって、一生続けるライフワークです。ただ、「パク チー料理」に取り組む方々が飛躍的に増えた今、僕が本当にしたいことはパク チー料理専門店としての「老舗」とか「パイオニア」という言葉に胡座をかくこ とではなく、「パクチー」を手段にしてやりたいと思っていたことに改めて注力 することだと思いました。 ・パクチーハウスに来ることが「旅」となること ・パクチーハウスのお客さん・スタッフが「旅人」であること ・その旅により、お客さんもスタッフも日々人生をアップデートして、その集合 体が世界を変えること そうなるように店の運営方法を変えることに決めました。

パクチーハウスに来ることが旅
世界を旅するさまざまな人と飲み語って気づいたことは、日本人の多くが人生の大切な・幸 せな節目に、好きなことを止めがちであるということでした。 「旅は最高!」と叫んでいた友人たちが、就職(時間がない)・結婚(相手が出不精など) ・出産(子供連れて無理でしょ!)をきっかけに、大好きな旅を止めてしまいました。大学 時代に海外放浪ネットワーク「BEEMAN」という、今でいう旅サークルを運営していたため、 多くの旅人の友人を持つ一方で、多くの「旅を止めた」友人を知っています。 僕も企業に就職したこともある一人の日本人なので、日本の社会に蔓延する空気の中でそう なってしまうことは理解できます。遠くには行けない環境にあるかも知れません。でも、一 度知り得た旅人の感覚を封印する必要はないでしょう。パクチーハウスは世界の新しい情報 を仕入れたり、見知らぬ人との会話を楽しめる場所でありたいのです。外国に行かなくて も、飛行機に乗らなくても、旅はできます。パクチーハウスはそのことに気づくための場所 であり、パクチーハウスを体験することで日常生活を旅にすることができます。

お客さん・スタッフは旅人
「旅の経験者だけを雇います」という話ではありません。会社設立時に「旅」を 以下のように定義しました。単に外国その他を訪ねることではなく、「自発的に 動き、他者へ好奇心をもって接すること。文化を超えた視野を持ち、自分なりの 視点で世界を変える意思を持つこと」。 パクチーハウスを訪ねてくれる一人ひとりに関心を持って接したいです。入口は メニューやパクチーの雑学的な話から。そして、旅のこと、世界のこと、身近な 社会のこと。単に注文のやり取りで終わるのはツマラナイと思います。お客さん にも「そのつもり」で来てほしいです。 パクチーハウスは世界への入口。だから、世界を旅した人が訪れるし、移動しな くても旅ができるし、ここで起こった会話をきっかけに旅がしたくなるのです。

世界を変える
世界を大きく変える政治的な決断や、技術的なイノベーションが存在します。 「歴史に残る」ってやつです。誰もがそういうものを生み出せるわけではありま せん。しかし、本当に世界を創り、変えて行くのは自分たち自身だということを 知っていますか? 空気に呑まれてなんとなく過ごすのではなく、日々よりよいと思うものを選び、 自分の周辺を理想像に近づけていく。さまざまなアイデアに触れることにより、 世界観を拡げていく。そのためにいろいろな旅人とのコミュニケーションはとて も有効な手段だと思っています。 食事をすること、他人の話を聞くこと、思ったことを言ってみること。その集合 が世界を構成する要素です。パクチーハウスの日常がそれです。

そのためにすること
・毎月数日間臨時休業期間を設けます  立ち止まって考えます。  スタッフが旅に出やすくなります。
・臨時休業期間明けにスタイルを変えます  月ごとにどこかの国をイメージしたメニューを数品つくり、また、これまでの メニューもその国に合わせたアレンジを加えます
・メニューを減らします  お客さんの「決断数」を減らします
「非常識」と言われスタートしたにもかかわらず、たくさんのゲストを迎えるう ちに「多くの人が飲食店に期待すること」にいつの間にか囚われていました。8 年9カ月の節目に考えたことを、これから実践していきたいと思います。

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